原発技術は未確立であり、苛酷事故が避けられないというのは世界の常識です。
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1.原発は未完成の技術☞
(1) 原子炉の中の反応―核分裂と核壊変―
(2)2種類の軽水炉原発(BWR・PWR)と故障個所
(3) 原発技術が未確立な遠因とコアキャッチャー
(4) 原発老朽化の危険性の増大
(5) 原発の苛酷事故例
2.世界一危険な自然条件・社会条件☞
・日本は地震活動・火山活動が非常に活発であり、世界一危険な立地条件 ☞
・人口密集地帯に近接・集中して立地しており、危険が更に増幅 ☞
3.破綻した核燃料サイクル ☞
4.苛酷事故対策の軽視―多重防護第5層の無視― ☞
5.上昇を続ける原発コスト☞
6.原発・化石燃料から再生エネル ギー・蓄電・省エネ へ ☞
1.原発は未完成の技術
(1)原子炉の中の反応―核分裂と核壊変―
①核分裂(他発的核反応)
原子炉では一定の割合で核分裂をさせるためにウランが0.7%含まれている天然ウランを3~5%まで濃縮します(低濃縮ウラン)。低濃縮ウラン燃料の間に制御棒を出し入れし、核分裂を制御することで放出エネルギーをコントロールしています。
原子爆弾は90%以上に濃縮したウランに対し核分裂を制御することなく瞬時に反応することにより莫大なエネルギーを放出させます。
出典:山賀進氏HP
出典:環境省 放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料(R3年度版)
③放射線の種類
放射線には、電磁波と粒子波の2種類あります。X線とγ線は電磁波であり、α線、β線、中性子線は粒子波です。それぞれの透過力は以下の通りです。
α線(アルファ線)
RI(放射性同位元素)の崩壊によって放出されるα線は、紙1枚で遮蔽できます。α線核種を扱う場合は、体内への取込みによる内部被ばくに注意が必要です。
β線(ベータ線)
β線はプラスチック製の手袋や薄いアルミ板で遮蔽できます(原子番号の大きな物質は制動X線を放出するため、β線の遮蔽には適しません)。β線核種を扱う場合は、皮膚への付着による外部被ばくと体内への取り込みによる内部被ばくの両方に注意することが必要です。
X線・γ線(エックス線・ガンマ線)
X線・γ線は、α線やβ線と比較して物質との相互作用で失うエネルギーが少なく、遮蔽材を選ぶことが重要です。厚いコンクリートや原子番号の高い(電子を多く含む)金属(鉄や鉛)と相互作用させることで、より高い遮蔽効果を得ることができます。
出典:「ちょっと詳しく放射線」関西原子力懇談会
中性子線
中性子は他の放射線のように、原子番号の高い物質で遮蔽することが難しいです。一方で、中性子は水素原子と衝突することで効率よく減速するため、水やパラフィンが最適な遮蔽物と言えます。
(2)2種類の軽水炉原発(BWR・PWR)と故障個所
①沸騰水型原子炉(BWR:Boiling water Reactor)
原子炉内の核分裂反応により生じた熱エネルギーで軽水(純度の高い水)を沸騰させ、高温・高圧の蒸気として取り出し、汽水分離器、蒸気乾燥器を経てタービン発電機に送られ発電します(下左図参照)。炉心で核燃料に接触した水の蒸気を直接タービンに導くのでタービンや復水器、蒸気配管などが放射能汚染されます。このため、廃炉時に発生する放射性廃棄物はPWRより多くなり、廃炉コストが嵩む可能性が高いうえ、作業員の被曝量も加圧水型原子炉より多くなります。
発電に用いられた軽水は放射性を帯びているため、蒸気を回収し再循環させるだけでなく、タービン建屋などを遮蔽することで、放射能の外部漏出を防ぎます。また、核分裂反応の制御は、主に制御棒の操作や冷却材流量の増減で行われ、冷却材喪失事故時には非常用炉心冷却装置(ECCS)を動作させる仕組みになっています。
日本のBWR炉:東北電力、東京電力、中部電力、北陸電力、中国電力の全原子力発電所、日本原子力発電(東海第二発電所)、敦賀発電所1号機
下右図は、「老朽化原発ウェビナー」(原子力情報資料室 山口幸夫)からのBWR原発の事故発生箇所です。ほとんど全ての箇所で事故が発生しています。なお、ここには緊急炉心冷却系は含まれていません。事故が起こって初めて作動するものだからです。
出典:資源エネルギー庁 出典:「原⼦炉の⽼朽化の現状と原因」(原⼦⼒資料情報室、山口幸夫)
②軽水炉型原発ー加圧水型原子炉(PWR:Presurized water Reactor )
核分裂反応によって生じた熱エネルギーで、一次冷却材である加圧水(圧力の高い軽水)を300℃以上に熱し、蒸気発生器で発生した二次冷却材の軽水の高温高圧蒸気を得る方式(下左図参照)。生成した高温高圧蒸気を蒸気タービンへ送ります。一次冷却系と二次冷却系が分離され、放射性物質を一次冷却系に閉じこめることが出来るため、BWRのようにタービン建屋を遮蔽する必要が無く、タービン・復水器が汚染されにくいため保守時の安全性でも有利です。しかし、複雑な熱交換器やポンプや配管類が増えることにより保守性や安全性に問題が生じ、熱交換の際にロスが生じます。また圧力容器・一次冷却系配管に掛かる圧力も相応に高いために、設計製造にはBWRの圧力容器・配管よりも高い技術力が求められ、原子炉の設置コストも増大する傾向にあります。
日本のPWR炉:北海道電力、関西電力、四国電力、九州電力各社の全原子力発電所、および日本原子力発電の敦賀発電所2号機
下右図は、「老朽化原発ウェビナー」(原子力情報資料室 山口幸夫)からのPWR原発の事故発生箇所です。ほとんど全ての箇所で事故が発生しています。なお、BWRと同じ理由で緊急炉心冷却系は含まれていません。
出典:資源エネルギー庁 出典:「原⼦炉の⽼朽化の現状と原因」(原⼦⼒資料情報室、山口幸夫)
(3)原発技術が未確立な遠因とコアキャッチャー
原発技術が未確立なのは、東西冷戦下で安全性を軽視した軍事目的の軽水炉開発の補完物として推進されたことに遠因があります。アイゼンハワー米大統領は「平和のための原子力(Atoms for Peace)」国連演説(1953年)をはじめ、ウラン濃縮技術、再処理技術、軽水炉技術などの原発開発が原子力の平和利用であることを宣伝しましたが、実際は、軽水炉原発の軍事利用と平和利用は表裏一体の補完関係で開発が続けられ、危険性の除去の研究開発は不十分でした。
【表の顔】 核兵器・核艦船(原子力潜水艦、原子力空母)の開発・軍事利用
【裏の顔】 原子力発電ネルギー利用
コアキャッチャー
独シーメンスとユーラトム欧州原子力共同体は、苛酷事故 を抑え込む技術開発に挑みました。しかし、成果とされたのは「コアキャッチャー※」(核燃料溶融物のセラミック受け皿)でした。これは欧州型軽水炉(EPR)で採用され、日本の革新型軽水炉にも取り入れられていますが、これは苛酷事故を前提としたものであり、苛酷事故を防ぐ技術が無いことを証明しています。
出典:欧州加圧水型炉 (EPR) のコアキャッチャー(ウィキペディア「コアキャッチャー」)
(4)原発老朽化の危険性の増大 ☝
(準備中)
(5)原発の苛酷事故例
(準備中)
2.世界一危険な自然条件・社会条件
(1) 日本は地震活動・火山活動が非常に活発であり、 原発立地は世界一危険 ☝
日本列島は4つの大きなプレートの上にあり、太平洋プレートとフィリピン海プレートが日本列島の下へ潜り込んでいます。このため地震の発生は不可避であり、世界で起こるマグニチュード6(M6)以上の地震の20%近くが日本周辺で起きています。東北地方太平洋沖地震(2011)や能登地震(2024)のような大きな地震は偶然ではありません。結果、福島第一原発は未曾有の苛酷事故が発生しました。能登地震では志賀原発は停止中だったことが幸運でしたが、変圧器の故障等が発生しました。また、住民運動で建設がストップした「珠洲原発」は能登地震の震源上に計画されていました。もし、建設されていたら地盤隆起等の地盤変動も加わり史上最悪の事態が発生した可能性が高かったのです。
南海トラフでは、30年以内に70~80%の確率でM8~9クラスの地震が発生すると予測されております。震源域が広く、浜岡原発や伊方原発は震源上にあり、川内原発もその延長線上にあります。
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プレートの動き1
日本は4枚のプレートの上にあり、太平洋プレートは1年に8cm、フィリピン海プレートは1年に3~5cmの移動速度で、北米プレート、ユーラシアプレートに沈み込んでいます。
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プレートの動きと断層群
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プレートの沈み込みと地震のタイプ
地震には3つのタイプあります。
【プレート境界型地震】 2つのプレートがぶつかり合い、海側のプレートは陸側のプレートの下に引きずられ沈み込みます。そしてプレート間のひずみが限界に達すると破壊し、元に戻ろうと急激に動くことで地震が起こります。3つのタイプの中で規模が最大です。関東大震災(1923年)や東日本大震災(2011年)がこのタイプです。
【プレート内地震】 地下深く潜ったプレートの先で破断などが起こった時に発生します。地下深くで発生するため、規模が大きくても地表の揺れ大きくなりません。
【内陸直下型地震】プレート内地震のうち、内陸部のプレート内にできた断層が急激にズレることで生じる地震です。規模は他の2つに比べて小さいが、地表近くで発生するので揺れは大きくなります。阪神淡路大震災(1995年)や新潟中越地震(2004年)がこのタイプです。 -
南海トラフ地震と原発立地
南海トラフでフィリピン海プレートは低角沈み込んでいます。そのために震源域の面積が広く、浜岡原発や伊方原発は震源上になります。これは太平洋側のプレート間、プレート内地震と大きく異なります。
(2)日本は人口密集地帯に近接・集中して立地しており、危険が更に増幅 ☝
東海第2原発の半径30km圏内には日立市や水戸市などの人口密集地があり、島根原発では県庁所在地である松江市全域が半径30km圏内にあります。なお、半径30km圏内は緊急予防措置区域(UPZ)、半径5km圏内は予防防護措置区域(PAZ)と呼ばれています。を能登半島地震で、原発からの避難の課題が浮き彫りになりました。能登半島の中部西側にある志賀原発(北陸電力)周辺では交通網が寸断されたうえ、多くの建物が倒壊し、空間放射線量も測れなくなるなど、避難の「前提条件」が崩れたためです。
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東海第2UPZ
東海第二原発では、半径5km以内の予防防護措置区域(PAZ圏)に5万人弱、半径30km以内の緊急防護措置区域(UPZ圏内)に約91万人が住んでいる。事故時に直接影響を及ぼす住民の多さと「避難計画の実効性がなさ」(2021/3水戸地裁判決)から危険は更に増幅し、住民に及ぼす影響は極めて大きい。
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美浜原発UPZ
美浜原発周辺の住民を避難させる場合には、県内にあるバスの3分の1にあたる278台が必要といわれる。2021年1月の大雪では、避難で使う国道8号や北陸自動車道で車の立ち往生が発生し、長時間通行できなかった。最悪の事態を想定し、それを前提に対策を講じなければならない。
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島根原発UPZ
島根原発では、半径30km以内に松江市全域が含まれ、PAZ圏内に1万人弱、UPZ県内に約45万人が住んでいる。
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能登地震による道路の寸断
能登地震で、多くの道路が寸断し住民が孤立しました。「能登半島の大動脈」とされる国道249号は少なくとも25カ所で土砂崩れや道路陥没などで寸断されました。
志賀原発で「志賀町原子力災害避難計画(H29)」(志賀町)は、“バス、福祉車両等の避難手段については、各施設、病院等が自ら確保できる避難手段のほかは、国、県、町が、関係機関の協力を得て、各施設、病院等必要な箇所へ手配する”と計画しているが、道路が使えない前提で避難計画を作らなければ意味無いことが明らかになりました。
3.破綻した核燃料サイクル☝
・「高速増殖炉」の破綻
日本の原子力政策は、当初から軽水炉と高速増殖炉の開発とされました。1967年の「第3回原子力開発利用長期計画」で、「軽水炉は当面の主流」「高速増殖炉は将来の主流」と位置づけられ、同時に再処理で両者を結ぶ核燃料サイクル政策(高レベル放射性廃棄物処理処分含む)が打ち出されました。
高速増殖炉(FBR)が「将来の主流」と位置付けられたのは「核燃料問題を基本的に解決する炉型」であり、「天然ウランのほとんどすべての利用」できるとされ、「昭和60年代(1985年からの10年間)の初期には経済性を達成することが期待され」たからです。高速増殖炉は燃料であるPu239を増やし続けるので「夢の原子炉」と言われました。
西欧の主要国が技術的・経済的困難などを理由に高速増殖炉から撤退する中で、日本のみが「原子力の平和利用の牽引国の役割を果たす」と豪語して開発に固執しました。しかし、原型炉「もんじゅ」は1995年12月のナトリウム流出・火災事故(右図の2次主冷却系ナトリウム漏えい)で、運転停止に追い込まれました。運転再開のための本体工事が2007年に完了し、2010年5月6日に2年後の本格運転を目指して運転を再開。しかし、2010年8月の炉内中継装置落下事故により、再び停止。2012年11月に立ち入り検査した原子力規制庁は、4万9千点近くある機器の約1万点の点検期間設定の不適切を指摘。2013年規制委から運転停止命令を受け、原子力関係閣僚会議が廃炉を決定(2016年)しました。こうして高速増殖炉開発は破綻しました。
「天然ウランのほとんどすべてを利用」という主張や、実用化が「昭和60年代の初期」などの約束はすべて絵にかいた餅に終わりました。下図は原子力文化財団の「原子力・エネルギー」図面集からの「原子燃料サイクル」の引用です。左が2007年2月版、右が2016年3月14日に更新されたもの。「夢の原子炉」が無くなりました。
田中俊一・原子力規制委員会初代委員長が「日本の原子力政策はうそだらけ」(「選択」2019/11)と指摘したのはむべなるかなです。「もんじゅ」開発費は会計検査院の調査(2018年5月報告)で、少なくとも1兆1313億6000万円にのぼります。
出典:原子力文化財団「原子力・エネルギー」図面集 「原子燃料サイクル」 左:FBR有(2007年2月版) 右:FBR無(2016年3月14日)
・MOX燃料を燃やす代替手段としての「高速炉開発」
2016年、原子力関係閣僚会議は「もんじゅ」廃炉決定と合わせ、「髙速炉開発」を決定しました。破綻した「核燃料サイクル」で製造される「MOX燃料」を処理するためです。日本の原子力政策の転換であるにもかかわらず、高速増殖炉開発、原子力政策の検証を行わないままに「もんじゅ」廃炉を決定し、「髙速炉開発」を決定しました。
現在、「MOX燃料」を使って発電できるプルサーマル原発は、再稼働済みの関西電力高浜3、4号機(福井県)、四国電力伊方3号機(愛媛県)、九州電力玄海3号機(佐賀県)の4基しかなく、増える見込みは小さいのが現状です。再処理施設が稼働しMOX燃料ができても、使用できる原発が少ないのでMOX燃料は増え続けます。そこで軽水炉原発とは異なる「増殖」機能を持たない「髙速炉開発」を決定したのです。「高速増殖炉」の代打として「高速炉開発」に頼らざるをえなかったのです。増殖機能がないため、取り扱う核物質の量やリスクが「高速増殖炉」より少ないですが、それでも高温での運転や冷却技術の問題、材料の劣化などの課題が山積しています。
・高コストな「MOX燃料」
MOX燃料の製造コストも大きな問題です。原子力資料情報室の「特設サイト 一緒に考えよう 日本の核燃料サイクル」によれば、使用済み燃料を海外で再処理・製造した輸入MOX燃料が15.2億円/tであるのに対し、国産MOX燃料は59.5億円/tにもなります。ウラン燃料と比較すると国産MOX燃料は20~50倍もするのです。
地球温暖化問題は時間との戦いであり、特に次の10年、15年が勝負です。再生可能エネルギーの拡大、蓄電池技術の改善、節電など、今すぐに実行可能な方法が重要であり、高速炉開発のような長期的な解決策を待つ余裕はありません。高速炉開発に固執するのではなく、再生可能エネルギーの普及と技術革新を進めることが、温暖化対策において最も重要な課題です。
・六ヶ所再処理工場の破綻
六ヶ所再処理工場のプロセス構成の概要です。処理工程が多く、かつ複雑です。1993年に着工し1997年に竣工する予定でした。ところが竣工延期を27回も繰り返し、着工から30年以上経っても完成せず、建設費用も当初の7600億円から2017年7月に約2兆9,500億円になっています。 総事業費は2024年8月時点で、前年から4000億円増加し15兆1千億円になっています。
27回も設計変更をせざるをえなくなった要因として、以下の点などが指摘されています。
・技術的な未熟と「最先端の 技術」を用いて建設できるという楽観的見通し
・未熟な技術などを理由とする技術者の不足と管理体制の悪さ(無責任体制)
・規制基準の厳格化
東京新聞は、同社の無責任体質を以下のように記しています(2022/9/8)。
「2020年12月に申請した詳細設計や工事計画の審査では、無責任体質を露呈した。審査会合では、担当者間の連携が不十分で規制委の求める水準の説明ができず、議論がかみ合わない場面が繰り返された。関係部署の約400人を体育館に集めて作業し、情報共有の徹底を図った後も、審査担当の幹部が資料の実物を確認せずに未完成のまま規制委に提出しようとした。今年8月8日の会合でも、規制委の指摘を受けて修正したはずの資料に対し、規制委側から『時間をかけたのに中途半端なものを出してきた』と叱責されるなど改善にはほど遠い。」
再処理技術が確立しており、技術者や関係者が同じ理解・認識であるならば、このようなことは起こり得ないことであり、技術的な未熟・破綻を雄弁に示しています。
・中間貯蔵施設
核燃料サイクルは、福島第一原発事故と高速増殖炉開発が原型炉「もんじゅ」の廃炉で破綻しました。それでも国・産業界は老朽化した原発の再稼働を急いでいます。しかし、下表に示す通り再稼働した原発のうち大飯・高浜・美浜(以上、関電)、玄海(九電)、川内(九電)、伊方(四電)では、使用済み核燃料の敷地内貯蔵率は80%を超え、審査中の原発では柏崎刈羽原発(東電)、浜岡(中電)が80%を超えています(2023年12月時点)。敷地内で貯蔵が満杯になると使用済み核燃料の行き場が無くなるので原発は停止せざるを得ません。このため苦肉の策として中間貯蔵施設が計画・建設されています。貯蔵期間は最長50年としています。
青森県に建設された全国初の原発敷地外の中間貯蔵施設に、2024年9月26日、新潟県の柏崎刈羽原発から初めて使用済み核燃料が、「キャスク」と呼ばれる金属製の容器に密閉され、移動・搬入されました。核燃料サイクルにめどが立たない中での搬入は、50年を超えて貯蔵される可能性があります。
貯蔵方式には湿式と乾式があります。湿式貯蔵はプール内で貯蔵する方法です。発電を終えた使用済核燃料は発熱量と放射線量が高いため、水を使って冷却します。乾式貯蔵はプールで冷却された使用済核燃料を、キャスク容器に入れて貯蔵する方法です。キャスクは冷却に水や電気を使わず、空気の自然対流(換気)で冷却します。
核燃料サイクルが破綻している中での原発再稼働は、使用済み核燃料を増やし、中間貯蔵施設と貯蔵量を増やすだけです。原発の再稼働はせずに、自然再生エネルギーにより電力需要を賄うことが、地球温暖化対策が喫緊の課題である今、何よりも重要です。
4.苛酷事故対策の軽視―IAEAが定義した多重防護第5層の無視―☝
原子力工学の第一人者である東京大学の岡本教授は、福島第一原発(F1)事故を受けて、「世界中の原子力発電所は、非常に危険な放射性物質を大量に内包しています。このため、安全に対しては多重、何重にも防御をしようという」思想が貫かれています。「深層防護あるいは多重防護と言い、IAEA(国際原子力機関)の定義によれば、5層の深層防護、5つの層から成っています。」と述べます(エネ百科インタビュー(2012))。そして、1~3層までは設計で対応すると述べ、4層の部分の安全対策を充実させていくことが非常に重要としています。これらは原発の技術的な面からの多重防護です。ところが苛酷事故が発生した際に住民の命や健康を守るなどの第5層について述べていません。原子力工学の研究者なので原発の技術的な第1~第4層について述べたのかもしれませんが、そうであるならば第5層に触れない理由を述べるべきでしょう。この記事の見出しは「事故でわかった原子力安全の課題とは」なので、技術的課題だけではなく、住民の避難をふくむ安全も含まれなければならないからです。
三菱総研は日本の代表的なシンクタンクです。ホームページに「深層防護って何? 福島第一原子力発電所事故後の原子力」というレポートがあります(2019.6.5)。「『人と環境を放射線リスクから防護すること』を目的とする原子力安全に関しては想定外では済まされません。もちろん、東京電力だけでなく、今後いずれの原子力発電所においても想定外を理由とした原子力事故は許されません。」と述べ、第5層を含む深層防護の必要性を説いています(下図参照:三菱総研作成)。
福島第一原子力発電所事故で多重防護が機能しなかった理由として国会事故調の報告書(2012)を引用して、以下を示しています。これらは全て第5層に関係するシビアアクシデント対策に関係するものです。
①シビアアクシデント対策の対象が内部事象に限定され、外部事象(地震、津波など)、人為的事象(テロなど)を対象外とし、米国 では規制対象としている長時間の全交流電源喪失を想定していなかった。
②シビアアクシデント対策が規制対象とされず、事業者の自主対策とされたため対策の実効性が乏しくなった。
③規制当局が、深層防護について5層のうち3層までしか対応できないとの認識を持ちながら必要な措置を怠った。
④9.11テロ後、全電源喪失に対する機材の備えと訓練を義務付ける規制(通称「B.5.b」)が米国で導入された事実を知りながら、日 本の規制には反映させなかった。
⑤日本のシビアアクシデント対策について、事業者と規制当局のなれ合いの結果、対策範囲は狭く、その対応は遅れ、実効性に乏しく 国際水準を無視したものであった。
レポートは「福島第一原子力発電所事故の教訓による新たな枠組み」として、下図を示し「第4層および第5層の防護策が徹底的に強化されていることがわかるかと思います。」と述べています。しかし、第5層の防護柵が徹底的に強化されている説明はなく、事故前と同じ「原子炉設置者の自主的取り組み」です。国会事故調の指摘やこの図は2012年、三菱総研のレポートは2019年です。7年も経過しているのに何の意見表明が無いのです。F1事故後も住民票を移さない原子力村の村民であることを物語っています。
第5層に対する国の姿勢を示すものとして、原子力安全委員会(当時)の決定文「発電用軽水型原子炉施設におけるシビアアクシデント対策としてのアクシデントマネジメントについて(1992/5/28)」があります。日本では「シビアアクシデントは工学的に起こるとは考えられないほど発生の可能性は十分低くなっていると判断される」とし、「アクシデントマネジメントの整備はこの低いリスクを一層低減するものとして位置づけられる」とし、苛酷事故対策は「原子炉設置者」の「自主的整備」に任され、国の公的規制の対象から外されました。その2年ほど前の1990年7月の文書でも「シビアアクシデント」について「IAEAの区分」では規制対象となっているが、「日本の区分」では対象外であることをわざわざ断っています。
産業界や学会などは、未だにこの国の方針に対し、異議を唱えられないでいるのです。
こうして、シビアアクシデント(苛酷事故)に対し無策のままに福島第一原発(F1)事故が起ったのです。
避難指示地域と汚染状況重点調査地域は8県で、年1mSvを超える地域の人数は700万人にもなりました。避難者数は伊東達也氏(原住連代表委員)によれば、2022年2月に8万人以上にもいることを明らかにし、政府発表である3万5千人弱の避難者数に対し「避難者の実態すらリアルに把握しようとしていない」と批判しました。このように住民に多大な影響、被害をもたらした原因の一つは、第5層に対し無策だったことです。
最高裁の2022年6月17日判決(津波の規模は想定外であり国に責任はない)は、第5層を原子炉設置者(東京電力)の自主的取組に委ねている国の責任を問わず、また、原住連が東京電力に対し「福島第1原発(F1)では、チリ津波(1960年)級の津波の襲来で、機器冷却系の海水ポンプが冠水し動かなくなること」、すなわち想定内の津波であることを指摘した事実を無視した、誤ったものです。更に、そもそも原子力施設の安全性においては想定外を理由とした原子力事故は許されない(三菱総研レポート)が世界の常識なのです。
出典:左から、福島民報、日本経済新聞、OurPlanet-TV
5.上昇を続ける原発コスト ☝
米国の民間投資会社ラザードが2023年に発表した発電所新設時の電源別コスト「均等化発電原価(LCOE)」によれば、原発のコストの平均値は、陸上風力や太陽光発電の平均の3倍以上です。経年比較でも原発のコストは上がり続け、2013年に太陽光とほぼ同じになり、2014年以降は太陽光や陸上風力より高くなっています。
2024年12月に公表されたエネルギー基本計画案では、2040年度に発電所を新設するという想定で試算しています。主な電源の1キロワット時当たりの費用は、原子力が2021年の11.7円以上から12.5円以上に増加。事業用太陽光は11.2円から8.5円に減少し、陸上風力は14.7円から15.3円に、液化天然ガス(LNG)火力は10.7円から19.2円に上がりました。変動の要因として以下が指摘されています。
・2021年の試算と比べ、原発事故の発生確率を下げた(原発のコスト減要因)
・原発の事故防止の追加的対策費や燃料代が増加(原発のコスト増要因)
・太陽光や着床式洋上風力は量産化が進んだ(再生エネルギーのコスト減要因)
・二酸化炭素(CO2)排出対策や円安による燃料代の高騰(火力のコスト大幅増要因)
経済産業省は、電力システムに接続したときに追加で発生する「統合コスト」を加味すると、原子力が太陽光を下回る可能性が高いなどとしています。これに対し大島教授(竜谷大学)や木村准教授(大阪産業大)らは次のような指摘をしています。
「原子力のコストは安く見積もられている」
・事故対策工事費が新規制基準の審査申請時の価格であり、許可時までの上昇分が反映されていない
・事故発生確率を引き下げる根拠が不十分である
・福島第1原発の処理・処分費の評価が不十分である
・使用済み核燃料や高レベル放射性廃棄物の処理・処分技術が確立していないのに架空のコストを設定している
「再生可能エネルギーのコストが過大評価されている」
・太陽光や風力にかかる2040年度の政策経費が高すぎる
・再エネに不利な統合コストは「電力システムの前提次第で大きく値が変わり、LCOEに単純加算する議論はナンセンス」
・蓄電池の活用や需給の細かな調整で、統合コストを抑えられる可能性が示されている
安田陽京大特任教授は「統合コスト」を次のように説明しています。
統合コストは、ある発電所を建設しそれを電力システムに接続するためには、一番左のLCOEだけを考えるのではなく、電力システムに接続するための追加的なコストとして、①プロファイルコスト、②需給調整コスト、③系統増強コストを考慮し、それらを合計した「(短期的な)システムコスト」とされています。
本来、統合コストで議論すべきことは④の部分で、さまざまな柔軟性の選択肢を考慮して、技術的・制度設計的な改善を行いながら如何に統合コストを低減していくか、ということです。「統合コストの一部を考慮した発電コスト(仮称)」は太陽光が最も高くなっており(2番目は風力)、「やはり太陽光は(風力も)高い」→「だから再エネは辞めよう」という議論になりがちです。しかし、ここには外部コスト(隠れたコスト)が十分盛り込まれていません(再生エネルギーの項を参照)。
「統合コスト」は、再エネの大量導入が進むことを前提として、それにかかる社会コスト全体を予め評価するために生まれた概念です。「再エネは高いから辞めよう」ではありません。
統合コストの概念図 (参考: F. Ueckerdt氏らの論文を基に安田氏日本語訳。①〜④は筆者の追記で原図にはない)
「均等化発電原価(LCOE)」
実際の発電所データを参考に、建設から廃止までの総経費を、運転期間中の総発電量で割って算出する国際的な指標。原子力は事故対応費用が膨らむ恐れがあるため、下限値のみを示しているので、コストは過小評価されている。
6.原発・化石燃料から再生エネルギー・蓄電・省エネへ ☝
6.1 再生可能エネルギー導入の必要性
生態系の保護と経済合理性から、原発・化石燃料から舵を切ることが重要です。
①生態系の保護
・再生可能エネルギーは環境負荷が小さい
発電時に化石燃料は二酸化炭素(CO₂)を、原発は有害な放射性廃棄物を排出します。一方、再生可能エネルギーはそれらを出さないので、地球温暖化の原因となる温室効果ガスを減らすことができます。直接的な生態系の破壊も伴いません。もちろん、風力発電所が鳥やコウモリに影響を与えることや、大規模な太陽光パネル設置が生物多様性に影響を与える可能性もありますが、原子力発電と比べてその影響は少ないとされています。
・再生可能エネルギーは持続可能で再生可能
再生可能エネルギーは自然の力を利用しており、資源が枯渇することがありません。これにより長期的なエネルギー供給の安定性が確保され、生態系にも配慮した持続可能な社会を実現できます。
・原子力発電は環境負荷が大きい
原子力発電は、ウラン燃料の調達から高レベル放射性廃棄物の処分までのエネルギー利用サイクルが未完成です。安全保障の点から開発を急いだ核燃料の増殖施設である高速増殖炉は破綻しました。使用済み核燃料を再処理する六ケ所再処理施設の稼働時期は未定であり、たとえ稼働しても不具合や事故の多発が予想されます。技術的に未完成だからです。更に高レベル放射性廃棄物の処理(キャニスター)ができても10万年もの長期間、生態系に対し安全に処分する場所や方法は見いだせていません。一方、原子力発電は冷却用に大量の海水を使用します。温排水になった海水は海に戻され温度が高いと、水中の溶存酸素量が減少し、魚や水生生物に悪影響を与えます。
他のエネルギー源に比べ、事故の影響が格段に大きく、放射能漏れによって周辺の生態系に深刻な影響を与えます。福島第一原発事故からもわかるように、放射能汚染は広範囲にわたり、人間の健康や動植物などの生態系に深刻な影響を与えます。
②経済合理性-「便益」と「外部コスト」―
以下は、安田京都大学特任教授のコラム(「再生可能エネルギーはなぜ世界中で推進されているのか」)を参考にしたものです。
・便益は皆が分かち合うもの
便益は利益と違い、特定の個人・企業・団体だけが得るものではなく、関係者全員、市民や国民全体、広くは生態系全体が恩恵を浴するものです。再生可能エネルギーの便益とは、以下のようなものがあります。
化石燃料の削減、CO2削減、輸入依存度低減、健康被害の抑制、
自然保護、異常気象の抑制、生態系への影響軽減
雇用創出など
国際再生可能エネルギー機関(IRENA)の報告によると、地球温暖化防止のためには、世界全体で毎年2,900億ドル(≒44兆円、1$=150円換算)の再生可能エネルギーへの投資が必要と試算されています(図「再生可能エネルギーのコストと便益」)。この投資額に対し「国民負担が増える」などという批判があるかもしれません。しかし、その投資を行えば、大気汚染やCO2増加による地球規模の損害を防ぐことができ、その便益は1.2〜4.2兆ドル(≒180〜630兆円、同上)と試算されます。逆にいうと、この投資を怠ると、その4〜15倍の損害が発生することになります。この損害は、特定の個人や団体のみが被る損害ではなく、国民全体・地球市民全体、生態系に降りかかってきます。したがって、このような損害を防ぐこと自体が地球市民全体へもたらされる社会的便益となります。
再生可能エネルギーのコストと便益
(出典)IRENA: Roadmap for a Renewable Energy Future (2016)
・外部コストは他人に迷惑をかける度合い
外部コストは、「隠れたコスト」とも呼ばれ、市場取引の価格に反映されないコストです。例えば、農薬たっぷりの野菜は育てるのがラクで安く売れるかもしれませんが、農薬による土壌汚染や健康被害が発生した場合、誰がそのコストを払うのでしょうか。あるいは、発展途上国の児童強制労働で製造された非常に安い商品に対し、「安ければ良い」ではなく、誰かに不当に迷惑をかけて(負の外部コストを発生して)まで安くすることは倫理上許されないという意識になっています。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の調査によると、再生可能エネルギーは他の電源に比べ文字通り桁違いに外部コストが低く、特に風力発電はその中でも最も低い技術のうちの一つであることが明らかになっています(下図)。違う言い方をすると、石炭火力は再エネの100倍以上の外部コストを発生している故に安い価格で発電していることを意味します。世界中で石炭への投資の引き上げ(ダイベストメント)が起こっていますが、投資家の経済合理的判断に基づいた当然の帰結です。
再生可能エネルギーおよび火力発電の外部コスト
(出典)IPCC第3作業部会: 再生可能エネルギー源と気候変動緩和に関する特別報告書, 環境省訳 (2012)
(図 TS.10.15: 再生可能エネルギー及び化石エネルギーの発電のライフサイクルに起因する外部コストの例。この図は対数スケールとなっていることに注意。黒線は、気候変動に起因する外部コストの範囲を示し、赤線は、大気汚染物質による健康への影響に起因する外部コストの範囲を示す。化石エネルギーでは、二酸化炭素回収・貯留が装備されていない場合、気候変動に起因する外部コストが大部分を占める。η: 効率要素。これらの結果は、それぞれ異なる仮定による 4 つの研究に基づく(A~D)。健康への影響の外部コストに対する不確実性は、3 倍であると考えられている
[図 10.36])
もちろん、風力や太陽光も外部コストはゼロではなく、景観や騒音など地域住民との摩擦が日本でも報告されています。その問題解決が急務です。再生可能エネルギーだからなんでも良いと大手を振って歩くことは許されず、自ら外部コストを下げる努力をしなければならないでしょう。
6.2 エネルギーの安定供給(再生可能エネルギーとのベストミックス)
日本では、火力発電と水力発電(火主水従)を主電源とし、原子力発電をベースロード電源として電力を賄ってきました。この組み合わせは「ベストミックス」と言われましたが、CO2などの排出により地球温暖化を促進させ、福島第一原発事故が起こる中で、今では「ワーストミックス」になっています。再生可能エネルギーを中心にした新たな「ベストミックス」の構築・促進が必要です。
・再生可能エネルギーの種類
再生可能エネルギーは、自然界から得られるエネルギーであり、地球環境への負荷が少ないとされるものです。太陽や地球の状態が現在と大きく変わらなければ、長期にわたり持続可能な形で再生利用することができます。
一方で再生可能エネルギーは供給が不安定という弱点があります。そこで安定供給のための再生可能エネルギーとのベストミックスが必要です。再生可能エネルギーには、下図に示すように太陽光エネルギー、風力エネルギー、水力エネルギー、地熱エネルギー、バイオマスエネルギー、潮汐エネルギー、波力エネルギーなどがあります。
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再生可能エネルギー
太陽エネルギー:太陽からの光や熱を利用してエネルギーを得る方法。太陽光発電や太陽熱発電があり、最も広く利用されています。最近は、ペロブスカイト材料による太陽光発電が注目されており、経済産業省は2023年に「再生可能エネルギーに関する次世代技術」に選定。
風力エネルギー:風の力を利用して発電。図は、陸上の風力発電が描かれていますが、経済産業省は2023年に「再生可能エネルギーに関する次世代技術」として浮体式洋上風力発電を選定。
水力エネルギー:水の力を利用して発電。ダムを利用した大規模な水力発電から用水路を利用した小規模なものまであり、安定供給が期待できます。
地熱エネルギー:地球内部の熱エネルギーを利用。発電や暖房に利用する方法で、火山活動の地域や温泉地域などが対象で、安定供給が期待できます。
バイオマスエネルギー:生物由来の有機物(バイオマス:木材、農作物、動植物の廃棄物など)を利用。バイオマスを燃焼させたり、ガス化やメタン発酵させたりしてエネルギーを得ます。
潮汐エネルギー:海の潮の満ち引き(潮汐)による水位差を利用。
波力エネルギー:海の波の力を利用。波の上下動を機械的な動力に変換。
・電力の安定供給源 火力・原子力の退場と蓄電池・揚水発電・クリーンな水素の拡大
電力は、発電量と使用量がバランスしないと発電に不具合が生じ、最悪の場合、大規模停電が起こります(同時同量の原則)。太陽光発電は、季節・昼夜・晴天/雨天などで、発電量が変化します。風力発電も同様です。これらの変動を調節し、安定供給するため、現在は火力発電や原子力発電などに頼っています。しかし、以下の理由などにより退場してもらわなければなりません。
a)火力発電は、大量のCO2を排出し、地球温暖化を促進、生態系を破壊する
b)原子力発電は、苛酷事故が起こらない保証はない、使用済み核廃棄物の処分を責任持って次世代に引き継げないなど
蓄電池 蓄電池システムをスマートグリッドに組み込み、発電量が過剰な時間帯に蓄電池に電力を蓄えて、需要が高くなる時間帯や再生可能エネルギーの発電量が不足する時に放電して不足分を埋め合わせます。
揚水発電 揚水発電施設は、上ダムと下ダム、そして発電施設で構成されます。自然再生エネルギーの発電量が過剰な時間帯や、需要が少ない時間帯に、余剰電力を利用して下ダムから上ダムに揚水し、需要が高くなる時間帯に上ダムに溜まった水を放流し発電します。水の位置エネルギーを電気エネルギーに変換するシステムであり、文字通りの蓄電池です。
水素エネルギー 再生可能エネルギーの変動性や偏在性といった課題を解決する可能性のあるエネルギーの一つです。水素を作る時にCO2を排出するかどうかで、グレー、ブルー、グリーンと「色」で水素を区別します。
グレー水素:化石燃料(石油・石炭など)から作られCO2を排出。日本の産業用や燃料電池自動車の水素燃料として供給されています。
ブルー水素:製造方法はグレー水素と同じ。違いは発生したCO2を地中に貯留(CCS:Carbon dioxide Capture and Storage)し、大気中に放出をしないこと。「世界一危険な自然条件・社会条件」で述べたように日本は地震活動・火山活動が非常に活発なので、一時的に地中に貯留できても大気中へのCO2の逸散を食い止められないでしょう。「地球温暖化よ、わが亡き後に来たれ」の技術です。
グリーン水素は、再生可能エネルギーを使って水素を生成するもので、例えば太陽光発電で作られた電気で水を電気分解して水素を作ります。これを実現するには、再生可能エネルギーによる発電を増やすことが必要です。国が石炭・原子力路線から再生可能エネルギーの最大活用路線に舵をきる時です。
・スマートグリッドとDR(Demand Response:要求応答)
スマートグリッド:「次世代送電網」を意味します。これまでの電力会社から需要者に電気を送る一方通行な送電網ではなく、ITによる通信・制御機能を活用し、送電調整などを行うことによりエネルギーの需給バランスをリアルタイムで最適化し、効率的な電力の分配を実現します。
DR(要求応答):電力需給を調整するための仕組みを言います。電力の供給と消費に関し、消費者と電力会社はリアルタイムでやりとりし、消費者(家庭、企業、工場など)の需要がピークに達する前、あるいは発電側の供給が逼迫している時に、電力消費を減らしたり(節約)、消費者が発電し使いきれなかった余剰電力を電力網に売ったりできます(「ピークシフト」や「バーチャル発電所」など)。これにより、電力ネットワークが安定し、エネルギー供給の効率が向上します。
出典:「次世代エネルギーシステムに係る国際標準化に向けて」経済産業省。一部加筆(×点、水素蓄電池)
DRの利点
・ピーク時の電力使用を抑えることで、発電負荷の軽減、停電・設備の過負荷の回避、電力供給の安定化など、全体的な電力コストを削減できる。
・ピーク時の電力を使わないことで、電力料金の割引やポイント還元やキャッシュバックなどの特典が得られ、消費者の電力コストを削減できる。
・電力会社は、発電所や送電網の運用効率を高め、無駄な発電の削減ができる。また、電力供給の安定化のために必要な設備投資を抑えることできる。
・再生可能エネルギーの発電量の変動に対し、DRを活用して消費者が需要を柔軟に調整することで、再生可能エネルギーを効果的に活用できる。
・消費者が設置したDR対応機器や家電と連携し、自動的に電力消費を調整できる。例:エアコンの温度設定の調整、大型機器のピーク時中断。
図の出典:資源エネルギー庁「ディマンド・リスポンスってなに?」
・省エネルギー
2024年6月のG7首脳声明では、省エネルギーはエネルギー転換における「第一の燃料(first fuel)」と位置づけられました。上述した技術や政策の促進に加え、エネルギー効率の良い家電製品(スマート家電)や断熱技術とエネルギー効率の良い建築、公共交通機関の利用促進などにより、消費するエネルギーを減らすことが持続可能な社会のために求められます。