原発技術は未確立であり、苛酷事故が避けられないというのは世界の常識です。
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1.原発は未完成の技術☞
(1) 原子炉の中の反応―核分裂と核壊変―
(2)2種類の軽水炉原発(BWR・PWR)と故障個所
(3) 原発技術が未確立な遠因とコアキャッチャー
(4) 原発老朽化の危険性の増大
(5) 原発の苛酷事故例
2.世界一危険な自然条件・社会条件☞
・日本は地震活動・火山活動が非常に活発であり、世界一危険な立地条件 ☞
・人口密集地帯に近接・集中して立地しており、危険が更に増幅 ☞
3.破綻した核燃料サイクル ☞
4.苛酷事故対策の軽視―多重防護第5層の無視― ☞
5.上昇を続ける原発コスト ☞
6.原発・化石燃料から再生エネルギー・蓄電・省エネへ ☞
1.原発は未完成の技術
(1)原子炉の中の反応―核分裂と核壊変―
①核分裂(他発的核反応)
原子炉では一定の割合で核分裂をさせるためにウランが0.7%含まれている天然ウランを3~5%まで濃縮します(低濃縮ウラン)。低濃縮ウラン燃料の間に制御棒を出し入れし、核分裂を制御することで放出エネルギーをコントロールしています。
原子爆弾は90%以上に濃縮したウランに対し核分裂を制御することなく瞬時に反応することにより莫大なエネルギーを放出させます。
出典:山賀進氏HP
出典:環境省 放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料(H29年度版)
③放射線の種類
放射線には、電磁波と粒子波の2種類あります。X線とγ線は電磁波であり、α線、β線、中性子線は粒子波です。それぞれの透過力は以下の通りです。
α線(アルファ線)
RI(放射性同位元素)の崩壊によって放出されるα線は、紙1枚で遮蔽できます。α線核種を扱う場合は、体内への取込みによる内部被ばくに注意が必要です。
β線(ベータ線)
β線はプラスチック製の手袋や薄いアルミ板で遮蔽できます(原子番号の大きな物質は制動X線を放出するため、β線の遮蔽には適しません)。β線核種を扱う場合は、皮膚への付着による外部被ばくと体内への取り込みによる内部被ばくの両方に注意することが必要です。
X線・γ線(エックス線・ガンマ線)
X線・γ線は、α線やβ線と比較して物質との相互作用で失うエネルギーが少なく、遮蔽材を選ぶことが重要です。厚いコンクリートや原子番号の高い(電子を多く含む)金属(鉄や鉛)と相互作用させることで、より高い遮蔽効果を得ることができます。
出典:
中性子線
中性子は他の放射線のように、原子番号の高い物質で遮蔽することが難しいです。一方で、中性子は水素原子と衝突することで効率よく減速するため、水やパラフィンが最適な遮蔽物と言えます。
(2)2種類の軽水炉原発(BWR・PWR)と故障個所
①沸騰水型原子炉(BWR:Boiling water Reactor)
原子炉内の核分裂反応により生じた熱エネルギーで軽水(純度の高い水)を沸騰させ、高温・高圧の蒸気として取り出し、汽水分離器、蒸気乾燥器を経てタービン発電機に送られ発電します(下左図参照)。炉心で核燃料に接触した水の蒸気を直接タービンに導くのでタービンや復水器、蒸気配管などが放射能汚染されます。このため、廃炉時に発生する放射性廃棄物はPWRより多くなり、廃炉コストが嵩む可能性が高いうえ、作業員の被曝量も加圧水型原子炉より多くなります。
発電に用いられた軽水は放射性を帯びているため、蒸気を回収し再循環させるだけでなく、タービン建屋などを遮蔽することで、放射能の外部漏出を防ぎます。また、核分裂反応の制御は、主に制御棒の操作や冷却材流量の増減で行われ、冷却材喪失事故時には非常用炉心冷却装置(ECCS)を動作させる仕組みになっています。
日本のBWR炉:東北電力、東京電力、中部電力、北陸電力、中国電力の全原子力発電所、日本原子力発電(東海第二発電所)、敦賀発電所1号機
下右図は、「老朽化原発ウェビナー」(原子力情報資料室 山口幸夫)からのBWR原発の事故発生箇所です。ほとんど全ての箇所で事故が発生しています。なお、ここには緊急炉心冷却系は含まれていません。事故が起こって初めて作動するものだからです。
出典: 出典:
②軽水炉型原発ー加圧水型原子炉(PWR:Presurized water Reactor )
核分裂反応によって生じた熱エネルギーで、一次冷却材である加圧水(圧力の高い軽水)を300℃以上に熱し、蒸気発生器で発生した二次冷却材の軽水の高温高圧蒸気を得る方式(下左図参照)。生成した高温高圧蒸気を蒸気タービンへ送ります。一次冷却系と二次冷却系が分離され、放射性物質を一次冷却系に閉じこめることが出来るため、BWRのようにタービン建屋を遮蔽する必要が無く、タービン・復水器が汚染されにくいため保守時の安全性でも有利です。しかし、複雑な熱交換器やポンプや配管類が増えることにより保守性や安全性に問題が生じ、熱交換の際にロスが生じます。また圧力容器・一次冷却系配管に掛かる圧力も相応に高いために、設計製造にはBWRの圧力容器・配管よりも高い技術力が求められ、原子炉の設置コストも増大する傾向にあります。
日本のPWR炉:北海道電力、関西電力、四国電力、九州電力各社の全原子力発電所、および日本原子力発電の敦賀発電所2号機
下右図は、「老朽化原発ウェビナー」(原子力情報資料室 山口幸夫)からのPWR原発の事故発生箇所です。ほとんど全ての箇所で事故が発生しています。なお、BWRと同じ理由で緊急炉心冷却系は含まれていません。
出典: 出典:
(3)原発技術が未確立な遠因とコアキャッチャー
原発技術が未確立なのは、東西冷戦下で安全性を軽視した軍事目的の軽水炉開発の補完物として推進されたことに遠因があります。アイゼンハワー米大統領は「平和のための原子力(Atoms for Peace)」国連演説(1953年)をはじめ、ウラン濃縮技術、再処理技術、軽水炉技術などの原発開発が原子力の平和利用であることを宣伝しましたが、実際は、軽水炉原発の軍事利用と平和利用は表裏一体の補完関係で開発が続けられ、危険性の除去の研究開発は不十分でした。
【表の顔】 核兵器・核艦船(原子力潜水艦、原子力空母)の開発・軍事利用
【裏の顔】 原子力発電ネルギー利用
コアキャッチャー
独シーメンスとユーラトム欧州原子力共同体は、苛酷事故 を抑え込む技術開発に挑みました。しかし、成果とされたのは「コアキャッチャー※」(核燃料溶融物のセラミック受け皿)でした。これは欧州型軽水炉(EPR)で採用され、日本の革新型軽水炉にも取り入れられていますが、これは苛酷事故を前提としたものであり、苛酷事故を防ぐ技術が無いことを証明しています。
出典:
(4)原発老朽化の危険性の増大 ☝
(準備中)
(5)原発の苛酷事故例
(準備中)
2.世界一危険な自然条件・社会条件
(1) 日本は地震活動・火山活動が非常に活発であり、 原発立地は世界一危険 ☝
日本列島は4つの大きなプレートの上にあり、太平洋プレートとフィリピン海プレートが日本列島の下へ潜り込んでいます。このため地震の発生は不可避であり、世界で起こるマグニチュード6(M6)以上の地震の20%近くが日本周辺で起きています。東北地方太平洋沖地震(2011)や能登地震(2024)のような大きな地震は偶然ではありません。結果、福島第一原発は未曾有の苛酷事故が発生しました。能登地震では志賀原発は停止中だったことが幸運でしたが、変圧器の故障等が発生しました。また、住民運動で建設がストップした「珠洲原発」は能登地震の震源上に計画されていました。もし、建設されていたら地盤隆起等の地盤変動も加わり史上最悪の事態が発生した可能性が高かったのです。
南海トラフでは、30年以内に70~80%の確率でM8~9クラスの地震が発生すると予測されております。震源域が広く、浜岡原発や伊方原発は震源上にあり、川内原発もその延長線上にあります。
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プレートの動き1
日本は4枚のプレートの上にあり、太平洋プレートは1年に8cm、フィリピン海プレートは1年に3~5cmの移動速度で、北米プレート、ユーラシアプレートに沈み込んでいます。
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プレートの動きと断層群
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プレートの沈み込みと地震のタイプ
地震には3つのタイプあります。
【プレート境界型地震】 2つのプレートがぶつかり合い、海側のプレートは陸側のプレートの下に引きずられ沈み込みます。そしてプレート間のひずみが限界に達すると破壊し、元に戻ろうと急激に動くことで地震が起こります。3つのタイプの中で規模が最大です。関東大震災(1923年)や東日本大震災(2011年)がこのタイプです。
【プレート内地震】 地下深く潜ったプレートの先で破断などが起こった時に発生します。地下深くで発生するため、規模が大きくても地表の揺れ大きくなりません。
【内陸直下型地震】プレート内地震のうち、内陸部のプレート内にできた断層が急激にズレることで生じる地震です。規模は他の2つに比べて小さいが、地表近くで発生するので揺れは大きくなります。阪神淡路大震災(1995年)や新潟中越地震(2004年)がこのタイプです。 -
南海トラフ地震と原発立地
南海トラフでフィリピン海プレートは低角沈み込んでいます。そのために震源域の面積が広く、浜岡原発や伊方原発は震源上になります。これは太平洋側のプレート間、プレート内地震と大きく異なります。
(2)日本は人口密集地帯に近接・集中して立地しており、危険が更に増幅 ☝
東海第2原発の半径30km圏内には日立市や水戸市などの人口密集地があり、島根原発では県庁所在地である松江市全域が半径30km圏内にあります。なお、半径30km圏内は緊急予防措置区域(UPZ)、半径5km圏内は予防防護措置区域(PAZ)と呼ばれています。を能登半島地震で、原発からの避難の課題が浮き彫りになりました。能登半島の中部西側にある志賀原発(北陸電力)周辺では交通網が寸断されたうえ、多くの建物が倒壊し、空間放射線量も測れなくなるなど、避難の「前提条件」が崩れたためです。
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東海第2UPZ
東海第二原発では、半径5km以内の予防防護措置区域(PAZ圏)に5万人弱、半径30km以内の緊急防護措置区域(UPZ圏内)に約91万人が住んでいる。事故時に直接影響を及ぼす住民の多さと「避難計画の実効性がなさ」(2021/3水戸地裁判決)から危険は更に増幅し、住民に及ぼす影響は極めて大きい。
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美浜原発UPZ
美浜原発周辺の住民を避難させる場合には、県内にあるバスの3分の1にあたる278台が必要といわれる。2021年1月の大雪では、避難で使う国道8号や北陸自動車道で車の立ち往生が発生し、長時間通行できなかった。最悪の事態を想定し、それを前提に対策を講じなければならない。
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島根原発UPZ
島根原発では、半径30km以内に松江市全域が含まれ、PAZ圏内に1万人弱、UPZ県内に約45万人が住んでいる。
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能登地震による道路の寸断
能登地震で、多くの道路が寸断し住民が孤立しました。「能登半島の大動脈」とされる国道249号は少なくとも25カ所で土砂崩れや道路陥没などで寸断されました。
志賀原発で「志賀町原子力災害避難計画(H29)」(志賀町)は、“バス、福祉車両等の避難手段については、各施設、病院等が自ら確保できる避難手段のほかは、国、県、町が、関係機関の協力を得て、各施設、病院等必要な箇所へ手配する”と計画しているが、道路が使えない前提で避難計画を作らなければ意味無いことが明らかになりました。
3.破綻した核燃料サイクル☝
(工事中)
4.苛酷事故対策の軽視―IAEAが定義した多重防護第5層の無視―☝
原子力工学の第一人者である東京大学の岡本教授は、福島第一原発(F1)事故を受けて、「世界中の原子力発電所は、非常に危険な放射性物質を大量に内包しているので、安全に対しては多重、何重にも防御をしようという思想が貫かれています。深層防護あるいは多重防護と言い、IAEA(国際原子力機関)の定義によれば、5層の深層防護、5つの層から成っています。」と述べます(日本原子力文化財団のHP(2012))。そして、1~3層までは設計で対応すると述べ、4層の部分の安全対策を充実させていくことが非常に重要としています。これらは原発の技術的な面からの多重防護です。ところが苛酷事故が発生した際に住民の命や健康を守るなどの第5層について述べていません。原子力工学の研究者なので原発の技術的な第1~第4層について述べたのかもしれませんが、そうであるならば第5層に触れない理由を述べるべきです。この記事の見出しは「事故でわかった原子力安全の課題とは」なので、技術的課題だけではなく、住民の避難をふくむ安全も含まれなければならないからです。
三菱総研は日本の代表的なシンクタンクです。ホームページに「深層防護って何? 福島第一原子力発電所事故後の原子力」というレポートがあります(2019.6.5)。「『人と環境を放射線リスクから防護すること』を目的とする原子力安全に関しては想定外では済まされません。もちろん、東京電力だけでなく、今後いずれの原子力発電所においても想定外を理由とした原子力事故は許されません。」と述べ、第5層を含む深層防護の必要性を説いています(下図参照:三菱総研作成)。
F1で多重防護が機能しなかった理由として国会事故調の報告書(2012)を引用して、以下を示しています。これらは全て第5層に関係するシビアアクシデント対策に関係するものです。
①シビアアクシデント対策の対象が内部事象に限定され、外部事象(地震、津波など)、人為的事象(テロなど)を対象外とし、米国 では規制対象としている長時間の全交流電源喪失を想定していなかった。
②シビアアクシデント対策が規制対象とされず、事業者の自主対策とされたため対策の実効性が乏しくなった。
③規制当局が、深層防護について5層のうち3層までしか対応できないとの認識を持ちながら必要な措置を怠った。
④9.11テロ後、全電源喪失に対する機材の備えと訓練を義務付ける規制(通称「B.5.b」)が米国で導入された事実を知りながら、日 本の規制には反映させなかった。
⑤日本のシビアアクシデント対策について、事業者と規制当局のなれ合いの結果、対策範囲は狭く、その対応は遅れ、実効性に乏しく 国際水準を無視したものであった。
レポートは「福島第一原子力発電所事故の教訓による新たな枠組み」として、下図を示し「第4層および第5層の防護策が徹底的に強化されていることがわかるかと思います。」と述べています。しかし、第5層の防護柵が徹底的に強化されている説明はなく、事故前と同じ「原子炉設置者の自主的取り組み」です。国会事故調の指摘やこの図は2012年、三菱総研のレポートは2019年です。7年も経過しているのに何の意見表明が無いのです。F1事故後も住民票を移さない原子力村の村民であることを物語っています。
第5層に対する国の姿勢を示すものとして、原子力安全委員会(当時)の決定文「発電用軽水型原子炉施設におけるシビアアクシデント対策としてのアクシデントマネジメントについて(1992/5/28)」があります。日本では「シビアアクシデントは工学的に起こるとは考えられないほど発生の可能性は十分低くなっていると判断される」とし、「アクシデントマネジメントの整備はこの低いリスクを一層低減するものとして位置づけられる」とし、苛酷事故対策は「原子炉設置者」の「自主的整備」に任され、国の公的規制の対象から外されました。その2年ほど前の1990年7月の文書でも「シビアアクシデント」について「IAEAの区分」では規制対象となっているが、「日本の区分」では対象外であることをわざわざ断っています。
産業界や学会などは、未だにこの国の方針に対し、異議を唱えられないでいるのです。
こうして、シビアアクシデント(苛酷事故)に対し無策のままに福島第一原発(F1)事故が起ったのです。
避難指示地域と汚染状況重点調査地域は8県で、年1mSvを超える地域の人数は700万人にもなりました。避難者数は伊東達也氏(原住連代表委員)によれば、2022年2月に8万人以上にもいることを明らかにし、政府発表である3万5千人弱の避難者数に対し「避難者の実態すらリアルに把握しようとしていない」と批判しました。このように住民に多大な影響、被害をもたらした原因の一つは、第5層に対し無策だったことです。
最高裁の2022年6月17日判決(津波の規模は想定外であり国に責任はない)は、第5層を原子炉設置者(東京電力)の自主的取組に委ねている国の責任を問わず、また、原住連が東京電力に対し「福島第1原発(F1)では、チリ津波(1960年)級の津波の襲来で、機器冷却系の海水ポンプが冠水し動かなくなること」、すなわち想定内の津波であることを指摘した事実を無視した、誤ったものです。更に、そもそも原子力施設の安全性においては想定外を理由とした原子力事故は許されない(三菱総研レポート)が世界の常識なのです。
5.上昇を続ける原発コスト ☝
(準備中)
6.原発・化石燃料から再生エネルギー・蓄電・省エネへ ☝
(準備中)